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これまで、文系の方が理系より高いとされてきたとき、よく引用されていたのは「松繁寿和・大阪大大学院国際公共政策研究科助教授(労働経済学)の調査」です。たとえば、理系.info, All About マネーでこの研究が引用されています。
ところがこの研究には注意すべきことがあり、調査対象が一つの国立大学の卒業生に限定されています。どこの国立大学かはわかりませんが、これは偏っているとしか言えないでしょう。文系出身者が給与の高い金融機関に多く就職していると言っているようですから、レベルの高い国立大学であることは想像できます。世の中を広く見れば、多くの文系出身者は金融機関以外に就職しているのではないでしょうか。
リクナビTech総研ではこの松繁先生の研究を鵜呑みにしない記事を2004年に掲載しており立派です。ただし調査対象が偏っていることを指摘してはいなかったようですが。
(私は松繁先生の原論文を読んでいないので、松繁先生を批判するつもりは全くありません。おそらく限定的な調査であるにもかかわらず数字・結論だけがマスコミ等を介して一人歩きしてしまったものと想像します。)
さて私達(香川大学工学部広報)は一昨年くらいから、国税庁の調査を根拠に、理系(工学部卒)の収入は悪くないと主張してきました。国税庁では業種別の給与所得者数・給与額の調査を毎年公表しています。例えば平成20年度の調査結果はこれです。これによると、平均給与の高い業種は上から順に「電気・ガス・熱供給・水道業」「金融・保険業」「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス、教育、学習支援業」「製造業」「建設業」「運輸業、郵便業」。ここまでが平均以上で、これ以外の業種は平均以下です(詳しくは元データを見て下さい)。見てわかるように工学部の主力就職先である電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、製造業、建設業は平均以上です。逆に平均以下の業種には工学部の主力就職先はありません。これら平均以下の業種は文系の雇用がほとんどのはずです。この調査は理系と文系の出身者に分けた調査ではありませんが、給与水準の高い業種に理系出身者が進んでいるということは言えるのではないでしょうか。
(医療福祉業の給与は平均以下ですが、医師の数より医師以外のスタッフの数が圧倒的に多いからではないかと推測します。)
今日の新聞記事に出ている西村先生らの調査は、特定の大学に偏っていた松繁調査の結論のみが一人歩きしていた状況を是正するものであり、国税庁の調査資料ともよく符合していると思います。
この記事へのコメント
tarumi
もちろん、各業界に両方いるわけですけど。理系度の薄い業界の給与が相対的には安いということは言えると思いますよ。
とおりすがり
業界別で分けたって、その中にも理系と文系がいて、文系の方が昇進が早いという現実を無視して議論するなんてどうかしてる。
tarumi
tarumi
シュベルトクロイツ
情報通信業は下請けになればなるほどより上位の会社にピンハネされますから、中小企業も含めた統計でない限り一概には言えないと思いますが
tarumi
だい
少し気になる点として
「製造業」「建設業」「運輸業、郵便業」はほとんどの現業の方が中卒・高卒で給料が低いのではないでしょうか。つまり工学部の主力就職先ではないけれど文系の主力就職先でもないような。
理系か文系、どちらが給料高いか議論するなら、学部別に卒業10年、20年、30年で給料のヒストグラム作るといいかもしれませんね。大学も分けてみるとおもしろいかも。